ある一軒家にて

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「仕方ない…で、(幽霊は今)どこに居るんだ?」 男性はスリッパを受け取ると腹を括り、一騎打ちに臨む侍の様な構えを取った。 「今は(どこかの物陰に)隠れちゃったから、分からないわね」 「そうか。(見える方のサヨコでも)分からないか…」 構えを崩さずに女性の支持を待つ男性。女性はと言うと、どう見てもゴキブリを叩くのには適さない体勢の男性をいぶかしんでいた。状況は動かず、時間だけが流れる。 「…あなた、(ゴキブリが物陰から)出て来るのを待っててもラチがあかないわ。直接叩くより他の方法にしない?」 「だから俺は(霊媒師とかお坊さんとかの)専門家に任せようって、最初からそう言ってるじゃないか」 「でも(害虫退治の)専門家だと高くつきそうだし、まずは私達でも出来る事をしましょうよ」 全く霊感の無い男性は、霊が見えるらしい女性の提案を受け入れて構えを崩し、侍から企業戦士に戻った。女性は男性から返却されたスリッパを履くと、冷静さを取り戻した様子で、床に散乱した食塩を片付け始める。 「あーあ、もったい無い。上の方だけでもすくい取って…ダメ?」 「何言ってるんだサヨコ….(清めに撒いた塩なんか食べたら、それこそ呪われるだろ)」 「冗談よ」 「それで、(幽霊に対して)素人でも出来る事って何だ?」 「(ゴキブリ退治って言ったら)やっぱりあれじゃない?あれ」 「あれじゃ分からないぞサヨコ(それにしても詳しいな…)」 モノは思い出せたのだが、肝心の商品名がどうにも出てこないらしく、女性はウンウン唸っている。男性は女性の知識と感覚に付いて行けず、最早丸投げの状態であった。 「あれよあれ。なんか…煙?水蒸気?が出るやつ」 「(除霊効果がある水蒸気の…あ、もしかして)ファブリーズか?」 「うーん、(ゴキブリは汚いから何となく)効くとは思うけど、それじゃないわね」 「そうか(あの噂は本当だったのか…それにしてもサヨコは本当に凄いな)」 人は得てして自分より詳しい人につい頼りがちなものだが、オカルトとなると尚の事で、女性が商品名を思い出せずにいる間にも、男性の中で女性がどんどん過大評価されていく。
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