ある一軒家にて

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「ああ!思い出したわ!(ゴキブリ退治には)バルサン!バルサンよ!」 「バルサン?(線香みたいな感じで効くんだろうか…もうサヨコが言ってるからそうなんだろう)」 幽霊に対してお香を焚くのはさほど不自然では無い。それに、今の男性にとっては最早、女性の発言が全てであった。 「でもバルサンだと匂いが残りそうね…ホウ酸団子とかにしようかしら」 「(幽霊が)食べるのか!?」 「当たり前じゃない。(ゴキブリは)何だって食べるでしょ」 「お、おう…」 次から次へと明かされる新事実。これまでの男性の中での幽霊像は完全に崩壊し、何でも食べる巨大な鬼の集団と言うイメージの、新たな幽霊像が打ち立てられるに至った。 「じゃああなた、ホウ酸団子買って来て」 「…分かった」 男性は部屋に戻って財布だけを持つと、ホウ酸団子だな、と女性に再度確認を取った上で家を出て、近所のドラッグストアへと向かった。女性はリビングへ一時避難し、テレビのワイドショーを見て男性が帰って来るまでの時間を潰す。 ガチャ… 「あ、帰ってきた」 しばらく経った後、玄関のドアを開く音が男性の帰りを告げた。女性はこれでもうゴキブリの恐怖に悩まされずに済むと、早くも勝ち誇った感じの顔で出迎えに行く。 「お母さんただいまー」 「あら…カオリ?今日はお友達と出掛けてるんじゃなかったの?」 しかし、帰って来たのは男性ではなく少女であった。男性はまだの様だ。もしかしたら彼は、何かの間違いを犯して時間を食っているのかも知れない。 「1人が体調崩して、今日はもういいやって。解散になった」 「あらそうなの。早く元気になると良いわね」 「本人はいつもの事だからって言ってたけどねー」 少女は少々お疲れの様子で、玄関に座り込んで女性と会話を交わす。 「あそうそう。カオリ、今日ね、出たのよ(ゴキブリが)」 「…出た?(何が出たんだろ)」
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