ある一軒家にて

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「(便を)見たい人なんていないと思うけど…そこまで言う?(便秘でお腹が張ってるのを見たくないって事かな…)」 「(あ、流石のカオリも全く平気って訳じゃ無いのね。やっぱりゴキブリなんて)もう二度と出て来なきゃ良いのよ」 「だからさー。(便秘が)辛いのは分かるけど現実逃避は良く無いって。(便が)全く出て来ないと最悪死んじゃうよ?」 「(ゴキブリが死んだって)別に良いじゃない。むしろ(ゴキブリなんて)死んじゃえば良いのよ」 「ちょ…(死にたくなる程悩んでたなんて知らなかった)お母さん、落ち着いて?」 女性が死と言うワードを出し、少女がそれを間違った形で受け取ってしまったせいで、少女は気を使って話さなければならなくなった。 「何よカオリ。私は落ち着いてるけど?(まさかゴキブリが可哀想なんて言わないわよね)」 「(十分落ち着いた上で死ねば良いだなんて)余計不味いって。出来る事からやろうよ(運動とか)」 「それは分かってるんだけど…」 ガチャ ここで、女性からお使いを頼まれた男性がようやく帰宅を果たす。 「サヨコ、帰ったぞー」 「お帰りー。お父さん出掛けてたんだ」 「お帰りなさい。遅かったじゃない」 「慣れない買い物だから中々見つからなくってな。もっと早く店員に聞いたら良かったよ」 一見すると何気無い家族のやり取りなのだが、その実は三人全員が凄まじい認識の入れ違いを起こしている。その事に三人はまだ誰も気付いていない。 「あなた、間違ったりして無いでしょうね?」 「お父さん何買って来たの?」 「ちょっとお母さんから頼まれてな。サヨコ、(除霊と言ったら)これだよな?」 男性は手にしたレジ袋の中から、女性の希望の品であるホウ酸団子を取り出した。 「そう、これよこれ。もう(ゴキブリに)悩まされずに済むわー」 直前に冷静に死をほのめかせていた女性が、紛れも無い毒物であるホウ酸団子のお使いをよりによって夫に依頼し、それを夫である男性が受諾して何食わぬ顔で手渡しし、更に女性は嬉しそうに物を受け取っている。余りにも常軌を逸脱した光景に、少女は飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
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