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政府要人になりすました“かわりみ”の正体はすぐに知れた。
正確には、そうはかられた。
情報操作にすぐれていたことから、天華団がからんでいるのは始めからわかっていたが、下っ端が先陣をきってくるだろうと思っていた旭は虚をつかれる。
政府要人になりすました“かわりみ”の一人は、明らかに実力者を思わせる余裕と貫禄があった。
豪奢なデスクに座ってこちらを見ている男はしかし、わずかに戸惑いを含んだ表情をしていた。
それは旭も同じだった。
どこかで見た顔だ――。
旭はそう思った。
しかしそんな不確かな感情に支配されたままではいけない。
「あなたは、誰?」
旭は、焦りと恐怖で額に汗をかきながら、それを悟らせないように平静を装って一言そう言った。
「白井雪(しらいゆき)だ。天華団の幹部をしている」
男は素直に短くそう言って微笑んだ。
身奇麗で、油断のならない男という印象だ。
男は笑顔で旭を見据えたまま言葉を続けた。
「君は、“日輪”の首領、旭だね?」
「政府に入りこんで、何を考えているの?」
旭は息巻くようにそう言った。
冷静を欠いた自分の勝機は低いだろうと悟ったが、ここまできたら真っ向から戦うしかない。
旭は身構えたが、白井は微笑みを崩さず、デスクについたままだ。
そうしてしばらく睨み合ったあと、旭は、のらりくらりとして不敵な笑みを浮かべる白井から、ある名簿を渡される。
「それは、簡単に言えば、人殺しの名簿だよ。私を見張る暇があるならそちらの方を何とかしたらどうだ?では私は行くよ。こう見えて、忙しい身なんでね」
白井はそう言って席をたち、部屋から出て行った。
旭は白井が部屋をでるまで恐怖で一歩も動けなかった。
動けるようになった頃にはもう白井の気配は建物内にはなかった。
旭は白井が渡してきた名簿を胸にひそませて日輪本部へと帰った。
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