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旭は、部屋の一角に置かれた豪奢なソファーに深く腰掛けると、白井から受け取った名簿に目を通す。
知らない名前ばかりだったが、名簿を見ていると部屋に潜むものたちがざわざわと騒ぎはじめた。
これは、やはり、何かある。
白井にはうまくあしらわれたが、名簿を渡す目は真剣だったので、旭はそこに載っている人物を訪ねることに決めた。
まずは一番最初に目についた名前の人物から調べることにした。
その人物――五十嵐清(いがらしきよし)は国立病院の産科医だった。
名医で有名らしく、外来の患者や入院患者にきいてもボロは出なかったが、出生前診断の正確さと中絶の技術に長けていることがわかった。
そこに何かあると踏んだ旭は、病院内に霊的なものがいないかを探るために眼を閉じて集中する。
その瞬間、旭の頭の中に情報が飛び込んでくる。
ある妊婦が五十嵐に、お腹の子供に障害があると言われたので中絶手術をした。
後日、本当は子供に障害などなかったという旨の文書が匿名で届く。
探偵に調査を依頼したところ、文書の内容は真実だと解り、女性は病院を相手どって訴訟をおこすことにしたのだが、周りにうまくまるめこまれて、結局は病院側が示談金を支払うことで和解が成立した。
五十嵐についても、刑事責任を問うにはいたらないとされた。
女性はその後子宮癌にかかり、子宮の全摘手術を受けて子供を産めない身となり、精神を病んで自殺した。
はっと眼を開けた旭は、目の前に黒い影が立っているのを見つける。
姿を見ることができたのは、これが初めてだった。
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