たいせつ

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女性は、悪霊と化していた。 その形相を見て、旭は、とり殺されると思うより先に、わかってあげなくちゃ、と思った。 恐ろしい形相を、怖いとかかわいそうと思う前に、自分も同じだから、同じ感情を抱ける身だから、頼ってくれないか、と伝えたいと思った。 そして旭は、悪意を周りにぶつけようとさらに怒りの形相をした悪霊の手を両手でしっかりと握りしめて、悪霊と同じくらいの形相で睨みつけた。 悪霊は、旭の形相におののき、表情をわずかにゆるめた。 そして悪霊は、自分が旭の表情と同じくらい険しく害意ある表情をしていることを悟り、黒い気を霧散させて人間の姿に戻った。 それを見届けた旭も、優しい表情に戻って言った。 「にらめっこは私の勝ちね。天国にいるあなたの子供に会ったなら、やさしい顔で笑顔にしてあげるのよ」 旭がそう言って笑顔すると、女性の身は天上へと昇っていった。
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