第3章

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 真っ暗な車内に2人きり……  大河が私の腰に手を廻した。私の膝の上に置いたパンフレットが下に落ちた。お互いにゆっくりと顔を近付け、そっと唇が重なった。  くちゅ……って、あれ?音がしない?  何度となく唇を重ねるが音が聞こえない。  あ……スピーカーから流れる音楽が五月蝿いせいだ。一旦気になり出すと、音楽が気になってキスに集中出来なくなった。  何、これ?ゲーム音?  電子的な高い音がピコピコと曲の間に流れ出し、その割にはボーカルの声は異常に低かった。  歌と言うよりガナリ声で喉を痛めつけたような苦しんでいるような、聴いてるこちらが「大丈夫?」と声をかけたくなるような曲だった。  しかもよく歌詞を聴くと「おうちに帰りたい」と言っていた。ひょっとしたら大河の心の声を代弁しているのだろうか?  そう言えば明日(日付は今日)は仕事だったことを思い出した。  私もそろそろおうちに帰りたい……  金曜日だから、もう少しいいけど……  しかし歌詞が可笑し過ぎる。笑いを堪えきれず私はそっと腕を外し大河から離れた。 「この曲、何?」急にキスを中断され若干不満そうな様子の大河だったが、好きな音楽の話ですぐに機嫌は良くなった。 「このバンドはエアギターじゃなくて、オレンジ色のあんぱんまんギターを弾くんだよ。すごいのがツアーの名前で著作権侵害って言うんだ。 しかもおうちに帰りたいって歌っているのにボーカルには帰るおうちがないんだ」  それからも大河はバンドについて饒舌に語り出したが、私はすぐに飽きて聞いてなかった。  眠いし、私もおうちに帰りたい…… (※ちなみにこのバンドは実在します)
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