第3章

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「ライブにも行くんですか?」  スピーカーからは相変わらず五月蝿い音楽が流れていた。 「うん、行くよ。ゲーム音が好きだからね」  最後に会った日も大河は掃除もしないでずっとゲームをしていたことを思い出した。これだけゲームばかりしていると音楽も好きになるのだろう。  しかしこの音楽は10代後半から20代前半向きに感じた。 「筋肉痛とかならないの?」 「始まる前にみんなでサイリウムを持ってラジオ体操をするから大丈夫だよ」  暗いライブハウスでラジオ体操って悪い冗談でしょう…… 「32歳のおじさんが行って浮かないの?」 「えっ?僕、34歳だよ」  真っ暗な車内で私は固まった。 「32歳じゃないの?」 「うん、30歳を3年言い続けたんだ。こっちに来た時はもう30歳だったから独身寮に入らなかったんだ。勿論社内ではちゃんと実年齢を言ってるよ」 「それじゃ私といくつ違うの?」  大河の声はおどけて笑いながら「ぴったり10歳だよ」と言った。  さばを読むのは女性だけかと思っていた。しかも3年も同じ歳を言い続けたなんて私の想像の枠を越えていた。 「もう嘘をついてることはないから安心して」 「ロリコンなんですか?」と、恐る恐る聞いた。  変態だとは思っていたが、まさか10歳も年の差があるとは思わなかった。 「ロリコンって、そんな変態扱いやめて。でもマナちゃんは充分に大人だから違うよねぇー」  大河の顔が近付くのが分かった。大河の息が微かに私の耳に当たった。と、そこに「おうちに帰りたい」とスピーカーから流れてきた。 「今日は帰りますよ」  私がそう言うと、大河がしょんぼりと離れるのが気配で分かった。
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