168人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
高嶋君の結婚式の2次会から半年の間1度もマナちゃんと会うことはなかった。
今日が最後のチャンスだろう。
しかも本当に時間がない。
海外転勤に希望を出したのが2年半前だった。
ちょうどその頃から僕は独身寮で度々開かれる誕生会やバーベキューに顔を出すようになった。
そしてその1年後にマナちゃんも1ヵ月に1回くらい訪れるようになった。
あの犬コロのように無防備に笑う彼女だとすぐに分かった。
何度となく話し掛けるも適当に相槌を打つだけでこちらの事は一切覚えてないようで、しかも僕に興味すらないようだった。
こう言ってはなんだが、高校3年から10年以上彼女を切らしたことはなかった。
2股も浮気もしたことはないし、束縛もしないし、自分では誠実で真面目な好物件だと思っている。
今は海外で仕事を考えているから彼女を作る気がなかったけれど、あの子はいいなと前から目を付けて狙っていた。
まぁ、焦ることはない。
徐々にこちらのペースに持っていこう。
そんな時だった。
希望を出して1年後、そうマナちゃんと会えるようになってしばらくしてアジアだったら空きがあると打診があったが、英語しか話せない僕はアメリカ以外は望んでなく、すぐに断った。
断った以上、もう海外転勤の話はないなと諦めていた。
その1年後くらいに北米と言う括りだったら空きがあると話が来た。
つまりカナダ、アメリカ、メキシコの3ヶ国と言うことらしい。
アメリカだけと言うのは担当者がいるので無理とのことだった。
英語は話せるが、フランス語とスペイン語は挨拶もろくに出来ない。
これでビジネスをやっていけるのか不安だった。
何度も本社に呼ばれ話し合いを重ね、3ヶ国は決定事項だったが、英語だけでビジネスが出来る部署に回してもらえることになり、ついに判を捺した。
判を捺した後に言われた……
「前にも言った通り、トロントで挨拶廻りをしてヒューストンで会議をしてバッファローで仕事してティファナで営業して自宅に戻るような生活だから、多分1ヵ月に2~4回くらいしか帰れないから。
その代わり休みは多いけど。
そのせいで前々任者は奥さんが病気になって、前任者は本人が鬱になって帰国したから、体調管理はしっかり頼んだよ。
今の担当はいつまで頑張れるかな」
えっ、マジ?
病気と鬱の話は前に無かった……
最初のコメントを投稿しよう!