第6章(最終章)

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「大河さん、3年も想ってくれてありがとう」 「まー、いいけどさ。でも彼は髪飾りにキスしたよな」 そう言う所はしっかり見ているんだ。 「だって、あれは不可抗力だもん」 冷ややかな目つきの大河を見るのは初めてで私の声は上擦っていた。 「それでもまだ僕とのキスはお預けなんだよな」 「うん、1週間後に住んでからは毎日して良いから」 私達の様子が変に思ったのか、皆食べたり踊ったり歌ったりしていたのを止めて、その場を動かずに固唾を飲んでこちらを見ていた。 「じゃ、手で良いよ」と、大河が右手を差し出しながら言うので私は左手をその手に添えた。 大河は婚姻届を仕舞った方ではないポケットから小さな箱を出した。 箱の中には指輪があった。 「どうして、インフルエンザだったのに?」 「僕は発病してないから金曜日に取りに行ったんだ。間に合って良かった」 皆が見守る中大河と私はお互いの薬指に指輪を嵌めた。 大河がソッと私の指輪に唇を当てた。 その瞬間、「ウワー」と歓声が上がり、その興奮のまま皆で垂直跳びをして踊り続けた。 振袖姿だったが垂直跳びなので私も皆の輪の中に混じって踊る事が出来、これ以上に無いくらい楽しい時間を過ごした。 ……そして4時にパーティーは終わり、私は大急ぎで普段着に着替えて大河と2人で市役所へ向かった。 もちろん婚姻届を出す為に。 無事に受理されホッとしたのか、それとも疲れが出たのか、私は帰りはウトウトとしていた。 「マナちゃん、寝たの?」 大河の声が聞こえたが私は何を言っているのか分からなかった。 ただ大河の息が頬に掛かりくすぐったい気がした。 「今日はお疲れさん、鬼木マナちゃん」 “鬼木マナ”と、それはそれは幸せを噛みしめるように大河が言った事も気が付かず私は母親に抱かれる赤んぼうのようにぐっすりと寝ていた…… [完]
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