第1章

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 駅から大河のアパートまでは数百メートルしかない。タクシーでワンメーターで行ける距離のため度々タクシーを利用していた。  駅の案内も見ずにここ1ヵ月で覚えたいつものタクシー乗り場にひとごみをかき分け走っていた。  大寒波到来・忘年会・クリスマスなど重なったせいで普段なら人よりタクシーの方が多いこの駅前のタクシー乗り場には珍しく長蛇の列が出来ていた。この列に並んでタクシーで行くより走った方が早くアパートに着くだろう。  私は踵を返すと今走ってきた道を更にスピードをあげて戻っていった。  きっと、さっきぶつかりそうになった人達が私を見て笑っているに違いない。映画だったらこんなときでも颯爽と行くんだろうけど。  しかし現実は鼻の頭を真っ赤にし、鼻水が垂れそうになりながら、思いっきりすすり上げ、さらに耳の上の方は切れそうに痛く、頬はファンデーションにヒビが入って崩れまくっているのだ。  それでも雪や雨じゃなかったからヨシとしよう。  私は寒い師走の夜空の下をわき目もふらずひたすら走った。  そして、漸く大河のアパートまでたどり着いた。
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