おわり

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台所に向かうと、ダンボールが2箱と白い包装紙が無残に広がっていた。 ガラスの破片を掃除機で吸い取ると、残りの食器を包装紙に包んでダンボールに入れる。 ふと沙織の足元に触れた感覚が残っていることに気が付いた。 彼女に触れたのも久しぶりだな、と自嘲気味に笑った。 最初のキスだとか、付き合って何年目の記念日だとか、そういう起こった出来事を回数に変換して記憶する能力は僕にはなかった。興味すらなかった。 女の子はそういうことを大事にするものなんだから、と沙織と喧嘩した日も謝る気すらなかった。謝ったとしても、この先もずっとそんな能力、僕が会得する見込みもないからだ。 だけど、ふと僕の手に残った沙織の感覚が僕に思わせたことは「沙織に触れるのもあれが〝最後〟かな」だった。 全ての食器を入れ終えると、リビングで携帯をいじっている沙織に呼びかけた。 「食器が最後だろ?あとなんかある?」 「あとは大丈夫、引越し屋さんあと10分後に来るって」 「そう、足は大丈夫か」 「うん、大丈夫。歩ける」
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