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静寂が僕らを包んだ。
僕もソファーに座って、携帯をいじりだした。
ふと、沙織の方を向くと目から涙がこぼれているのが分かった。
「足痛いの?」
「ばか、違うよ」
「そう」
「ごめん」
「何が?」
「拓也がくれたグラス割っちゃって、わざとじゃない」
あぁ、あれは僕が沙織の誕生日にあげたものだったのか。道理で見覚えがあると思った。
「いいよ、別に。無いほうがいいだろ。別れた彼氏のプレゼントなんて」
別れようと言い出したのは、沙織の方だ。理由は良く分からないが、「大事にされてないような気がする」って言ってたのを思い出した。
大事にしていたつもりだったから、何も言わなかった。これ以上の愛情表現ができないと思ったからだ。
インターフォンが鳴った。引越し屋だった。
さっきまでの涙を即座に拭って、何でもなかったかのように沙織はスタッフと話している。
別れの時が来た。
「さようなら」
沙織は言った。
「うん、さよ・・・・・・」
言いかけた言葉を僕は飲み込んで、言い直した。
「またな」
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