第1章 闇の中 神の光

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鍛冶屋の奉公に出され、親方に初めて教わったのは、水汲みと薪割りだった。 当時は、早く鑿や鉋を使いたくて仕方なかったのだが、今ならその大切さがわかる。だいたい、鍛冶屋の仕事というのは鑿や鉋を使うことだけではない。 積沸かし(竃に入れて熱する工程)や鍛錬、皮鉄造り(赤くなった金属の形を整える工程)など、複雑なあれこれを経て仕上げていく。何も、木とだけ向き合っているわけではないのだ。 もちろん、木も扱う。今ノワールが使っている家財、金物、刃物の木の部分は、大概彼が手ずから作ったものだ。庖丁の柄や物干し竿、客に茶を出すための湯呑みまで、ノワールの手にかかればできない小物はない。 やろうと思えば、家の骨組みぐらい作れるのかもしれない。実際、腕を買われて大工にならないかと言われたこともあった。しかし彼に、親方から受け継いだ技を他のことに使うつもりはないのだった。 今請け負っている仕事は6つ。刀を4振り、斧を1本、桶を1つ頼まれていた。期限が近い刀からとりかかった。 「ーーーー玉鋼見ず要らず、」 竃に鉄塊を入れ、それは熱を帯びてゆき、 「されど軟なり硬くなりーーーー」 彼はただ、その様子を見つめた。
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