第1章

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 「キャーーーー」  女性の悲鳴が響いた。それは俺のすぐ近くからだった。  俺は仕事の帰りだった。  俺の住んでるアパートは住宅街の中にあった。しかしその住宅街までは駅から10分ほど歩かなくてはいけなかった。駅前にはコンビニやファミレスがあったが、住宅街までの道のりは工場ばかりだ。昼間はその工場で働く人たちで賑やかだが、夜になると急に静かになる。  そんな静かな帰り道で、俺はある事件に遭遇したのだ。  俺は残業してからの帰りだったから、駅に着いたのは夜の9時になっていたと思う。駅を出てアパートへ向かう帰り道、俺の3メートル先に一人の女性が歩いていた。俺と同じ方向だった。きっと彼女も住宅街に向かうのだろう。  俺はこういう状況がすごく苦手だ。どうすればいいのか迷ってしまう。  同じ方向に向かう途中。道路には俺と彼女しかいない。彼女は俺の3メートル前を歩いている。しかし微妙に歩く速度は俺のほうが速い。この暗い夜道で、女性の後ろから追い抜かしてもいいものか迷ってしまう。追い抜かすとき、しばらく並んで歩くの嫌だし、かと言って、彼女の歩くペースに合わせて追い抜かさないようにゆっくり歩くのも面倒なのだ。  しかし、こういう場合、俺は追い抜かすことはせず後者を選ぶ。彼女との距離を一定に保ち。彼女の歩くペースに合わせるように歩く。追い抜かすときに変に怖がらせるより、面倒なペースで距離を保って歩くほうを選んでしまう。  しばらく彼女は普通に歩いていたが、急に振り返り俺のほうを見た。暗い夜道で、後をつけてきてる男がいる。見ようによってはそう見えるが、行き先が同じだけだから。俺は心の中で彼女に訴えかけた。  彼女は俺から視線を外し、またまっすぐ前に向き直した。そしてカバンからスマホをとりだし、歩きながら誰かに電話を掛けていた。  いつものパターンだ。こうなるからこの道は嫌なんだ。きっと彼女だって俺が襲うとは思ってない。しかし万が一の防犯対策のため、スマホで誰かと電話してるのだろう。
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