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そう言って、彼女は包丁を取り手首に当てることも何度もあった。俺は彼女を落ち着かせて、とりあえず包丁を取り上げる。しかし彼女は「別れるなら死ぬ」と言いながら泣き崩れる。俺のほうが根負けしてしまう。
別れ話をしては、またやり直す。そんなことを繰り返しながら1年が過ぎた。
やっぱり俺は彼女と別れたかった。一人になりたかった。束縛されず、自分の好きなときに友達と遊びに行きたかった。
俺は決心して、もう一度別れ話をすることにした。
「もう別れよう」
「嫌よ、別れない」
「俺、もう疲れたんだ」
俺がうなだれていると、彼女は無言になって何か考えているようだった。
「頼む、このとおりだ。別れてくれ」と言って俺は土下座をして。土下座なんて生まれて初めてのことだ。
彼女は黙ったまま、別の部屋に行った。そしてまた戻ってくるなり、俺に向かって何かを投げつけた。
「分かったわ、別れましょう。そのかわり交換条件があるわ」
俺は彼女の言葉に驚き、彼女の顔を見た。彼女は顎で、投げつけたものを拾えと俺に命令した。俺は彼女が投げつけたものを拾い、そしてそのかたまりを広げた。
そのかたまりは、コートと帽子。それにマスクだった。
「ある人の前で、私を襲いなさい。それが交換条件よ」
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