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なぜだ。
なぜ君は、不安に押しつぶされ、こんなにも弱り果てた「私」を、そんなふうに踏みにじれるのだ?
最後のその文字をしまわないでくれと、こんなにも哀願しているのに、なぜそんなに冷たい心でいられるのだ?
これは異なこと。
あなたはとんでもない誤解をなさっておいでだ。
さあ、これをご覧なさい。
ドアの傍にいる最後の文字をしまおうとしている男は、先ほど「私」がしたのと同じように心のドアを開けて、哀願する「私」に見せる。
それは、哀願する「私」がついさきほど、ドアの傍にいる最後の文字をしまおうとしている男に見せた風景に酷似していた。
さらに、哀願する「私」と、ドアの傍で最後の文字をしまおうとしている男がいま現在立っている場所にも酷似していた。
緑の丘の上に白い家が建っていて、窓はあるのかないのか判らず、ドアが一つある。
相違点は、緑の丘がおびただしい数と種類の草花木で埋め尽くされていることだろう。
デイジー、マーガレット、つるバラ、イヌカミツレ、やぐるま草、アリウム、アネモネ、タチアオイ、ペチュニア、おみなえし、コスモス、セイタカアワダチソウ、ビオラ、まんさく、ライラック、オオデマリ、たいさんぼく、ハリエンジュ、スイカズラ、ギンモクセイ……
そこに「私」はいない。
ドアの傍で最後の文字をしまおうとしている男もいない。
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