丘の上に建つ白い家の傍らに、二人の男がいる

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おい、また矛盾することを言ったな!? “思う”のは心だ、メロディだ、リズムじゃない。おまえの言うことは矛盾だらけだ。いい加減なヤツめ! なぜ俺は、こんなヤツに救いを求めているんだろう? ハハハハハ。ハハハハハ。 (男は大きく嘆息する) そういちいち揚げ足を取らなくても、もっと苛酷な現実・真実をお話しして差し上げますよ。この延々と続いていく風景の真実をね。 いいだろう、聞こうじゃないか。 「私」は鼻で笑ってやった。 (男はふたたび大きく嘆息する) この緑の丘、白い家、窓はあるのかないのか判らず、ドアが一つある。あなたと私がいる――この構成要素はこのままずっと繰り返されていきます。まるでだまし絵でも見ているかのようにね。 そうしてある地点まで到達したとき、このループは自然に終焉を迎えます。 そこに“本当の心の持主”がいるのです。 つまり、「私」は“本当の心の持主”ではないと? そういうことになります。 信じられん! 信じないぞ! この大嘘つきめが! 「私」は「私」のなかに、確かに感じているのだ!  最後の文字をしまわないでくれと貴様に懇願し、叫びながら走り寄っていく自分を! しまわれては「私」が消滅してしまうのではないかと恐怖し、不安に苛まれる自分を! 貴様のインチキ庭園よりずっとリアルではっきりした感覚が、「私」のなかにあるのを! そしてこの怒り! 貴様に対して、「私」があらわにしているこの怒り! 心なしでは生まれまい! 貴様の語りはただの理屈だ、ご託だ、悪趣味な冗談だ! 配慮に欠けた心ない言動だ!
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