白昼の悲鳴

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 浅野は添えられていたへらでお饅頭を切りました。断面から乳白色のこし餡が顔をのぞかせます。小片を口に運ぶと、柔らかい口当たりの中、ほんのりとした甘さが口の中に広がりました。 「う……ん、おいしい」 「そうでしょ」  小皿の上のお饅頭には、くぼみの部分がそのまま残っていました。 「この形はどんな意味があるんですか?」 「昔、このあたりは村はずれの街道で、石のおじぞう様が立っていたんです。そのおじぞう様にまつわる昔話から、このお饅頭が作られたんですよ」 「へえ」 「せっかくだからお話を聞いていってください」  店員は縁台に腰を下ろし、ゆったりとした口調で語り始めました。 「昔、このあたりは街道になっていて、その脇に小さなじぞう堂がありました。祀られていたのは背の高さ二尺ほどの石のおじぞう様でした。  おじぞう様は大きな慈しみの心で人々をお救いになる仏様です。人々に降りかかる災難を身代わりとなってわが身で受けたという話も伝わっています。  ここにあったおじぞう様も村を災厄から守るものとして大切にされていました。村人たちは前を通るたびに足を止めて頭を下げ、村の子供たちは花を摘んで作った首飾りをおじぞう様にかけたりしていました。  そうした中で不思議なことが起こったのです。  ある日、百姓の権六は鍬を担いて街道を歩いていました。街道のそばの川原からは子供たちの唄が聞こえてきます。  うしろのしょうめん いるのはだあれ  くるりとまわって ゆびさして  たがえることなく よんだなら  きんらんどんすの おびあげよ  権六はじぞう堂の前に差し掛かり、拝んで行こうと中を覗き込みました。とたんに目をパチクリします。じぞう様の姿がなかったのです。辺りを見回した権六は、地蔵堂から伸びる一筋の溝に気付きました。草が倒れ、土がえぐられたそれは、川原の方に向かっていました。
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