白昼の悲鳴

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 その日の夜、家でぐっすり眠っていた権六は、胸の上にひんやりとした何かがのしかかってくる感覚で目を覚ましました。岩山のように重いものにのしかかられて身動きできず、息もままなりません。瞼を開くと、闇の中で何かが胸の上に乗って、自分を見下ろしているのが見えました。ずんぐりした身体に丸い頭、ざらざらとした肌。それは街道脇のじぞう様でした。  じぞう様の細い眼が権六を睨みます。石を擦り合わせたようなゴロゴロという声が聞こえてきました。 『権六よ、せっかく子供たちと遊んでいたのに邪魔をしおって、けしからん奴じゃ』  権六は必死に声を絞り出します。 『でも、あんな泥だらけにされて……』  ゴロゴロという声が返ってきます。 『余計な御世話じゃ。わしは全然気にしておらん』 『そんなあ……』 『よいか、また、こんなことをするなら、お前にも痛い目に会ってもらうぞ』  じぞう様の言葉を聞きながら、権六の意識はうすれ、眠りに落ちていきました。  翌朝、権六が目を覚ました時にはじぞう様の姿はありませんでした。権六は昨夜の出来事が本当にあったことなのか、それとも夢だったのか、頭をひねりました。   その日、権六がじぞう堂の前を通りかかると、子供たちがあぜ道で何かを引きずっていました。目を凝らして見ると、引きずられているのはじぞう様でした。横倒しにして首に縄をくくりつけ、みんなでその縄を引っ張っています。  権六はあわてて子供たちの所へ駆けつけました。 『お前たち、なんてことをしているのだ』  子供たちが答えまする。 『じぞう様が川で一緒に水遊びをしようって言ったんだ』 『今日は暑いから水遊びをすると気持ちいいって』 『川に行くには土手を越えないといけないでしょ』 『だから、縄で結んで運んで行くんだ』  そのまま、じぞう様を引っ張って行こうとします。
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