白昼の悲鳴

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 何とか止めなくては。権六は一番後ろにいた五平の体を抱え上げました。  その時、昨夜のじぞう様の言葉が権六の脳裏をよぎりました。子供たちと遊んでいるのを邪魔するなとおっしゃっていた。だとしたら……。でも、首に縄をつけて引きずっていくなんて、いくらじぞう様だって怒ってらっしゃるのでは?  思い悩む権六の腕の中で五平が手足をじたばたさせました。権六は思わず五平のお尻に平手を振り下ろしました。 『いってえー』  声を上げたのは権六の方でした。まるで、岩を叩いたような感触でした。手のひらを見ると赤くなっています。一方、五平は平気な顔で、叩かれたことにも気づいていないようでした。  これはいったい……、権六は五平を降ろすと、両手で五平の手のひらを包み込みます。それはあたたかい子供の手でした。手を一度離し、勢いをつけて五平の手を叩くと、手のひらに激痛が走りました。五平の手は今度は石のように硬かったのです。  権六は、昔、ばあさまから聞かされた話を思い出しました。じぞう様が人々を救うため身代わりとなり、災厄を我が身で受けたという話でした。子供たちの体が石のように硬くなったということは、もしかして……。権六は、あぜ道に横たわるじぞう様の横にしゃがみこむと、おそるおそる指でほっぺを押してみました。  石でできているはずのじぞう様のほっぺはやわらかく、ぽよっとへこみます。権六の指はその中に吸い込まれていきました。 『ひえええええええええ』  権六は腰を抜かし、その場に座り込んでしまいました。 『ねえ、大丈夫?』  子供たちの心配そうな声に、権六は我に返りました。  じぞう様に触ってみると、元の硬い石に戻っていました。けれど、じぞう様の右のほっぺには権六が指でつついた痕がくっきりとへこんで残っていたのでした。  権六の話を聞いて、それ以来権六はもちろん、村の誰もが子供たちがじぞう様とちょっと乱暴に遊んでも決して怒ったりしなくなりました。  権六は子供たちがじぞう様を運びやすくするため、木でじぞう様の台座を作り、その下に大きな車輪を取り付けました。子供たちは台座を押して、原っぱや川原にじぞう様を連れて行くようになり、首に縄を巻いて引っ張って行くことはなくなったのでした。昔こっぷり、どうらんけっちり」
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