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「隣の芝生は青いってよく言うけど、瞳は青くないよね」
栢野(ももの)は、下方で二つに結った髪を揺らして言った。
「ああ、そうだな」
これに、俺は何の変哲も無い返事で答える。
「海は青い、雨も青い、空も青い、信号機も青い。ねぇ、何で瞳は青くないの?」
こんな質問、ありきたりだと皆思うはずだろう。しかし、彼女のおかしなところは、そんなことを言う彼女自身の目が青いことなのだ。まるで、透き通った海のように。
けれど、これを言うと彼女は何時も、「これはエメラルドグリーンだ」とケチをつけ、頬を膨らますので、もう言わない。
「海も雨も空も濁ってて違う色の場合があるし、信号機だって赤や黄もある」
「そうか。じゃあ、芝生だけはどうして青いって言われるの?」
この返しには、俺も言葉を詰まらせた。
やがて、授業のチャイムが鳴り、俺も栢野も、自然と席に着いた。
翌日のことだった、栢野が学校を休んだ。栢野はよく学校を休んだり遅刻をする癖があったので特別気にしてはいなかったが、この後悪い知らせを、下校中クラスメイトの噂で聞く。
「ももちゃん、目にあざが出来てたらしいよ」
「うっそ、どうして?」
「分かんないけど……親に殴られたとか?」
「えーうっそ、可哀想」
可哀想ってなんだ、世間話のペースで話してるくせに。
栢野が心配になった俺は、何時もの帰り道を変更し、栢野の家の方向へと一人向かっていた。
栢野と出会ったのは、二年前のことだった。この時から彼女は周りとは少し違う雰囲気があり、俺も人として、彼女の魅力を感じていた。そして俺から声をかけ、俺等二人は変わり者コンビに。
それでも、お互い上手くやっていた。男友達が沢山出来たし、栢野の方も、特にいじめられることなく、自分のキャラクターや位置を確立していた。
だから、気にすることなんて一つも無いと思っていた。それなのに。
「栢野、入るぞ」
栢野の母に家に入れてもらい、俺は栢野の部屋の前へ。母が容易く家に入れてくれる時点で、余程肝が据わっていないと親に殴られる心配は無いだろう。
「どーぞ」
栢野の許可が下りたので、俺は扉を開けて中へと入っていた。
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