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すると、栢野は薄暗い部屋の中、くまのぬいぐるみを抱きしめて体育座りでふさぎ込んでいた。その目元は、確かに殴られたかのように青い。
「おい栢野! 何やってんだよ!!」
両手を栢野の肩にやって怒鳴りつけると、栢野は僅かに微笑み、そして涙をながしながら俺に言った。
「どうしよ……また、目が青くなっちゃったよ……」
「……何言ってんだよ、お前……」
聞き返していたが、本当は理解していた。彼女の青さを。
以前から、栢野はクラスのわーきゃー騒ぐ女子を羨ましそうに見つめていた。同時に、男共と馬鹿をやる俺のことも。
出会った頃から俺と栢野はそれなりに仲が良かったが、栢野より俺の方が喋りは上手かった。だから、俺と栢野の間には友達の差がついた……どころの話じゃない。栢野はずっと一人ぼっちだったんだ。
それを、俺は見ないふりをしていた。彼女なら耐えられる。彼女だったら気にも留めてない。第一俺にしてあげられることは何もない。そんな風に誤魔化して。
けれど、彼女は耐えられなかった。ずっと一人ぼっちで、居場所を無くして、青かった瞳は、更に青くなってしまったんだ。
「この目嫌なんだ。だから、ぶった」
「……ごめん」
俺は彼女を抱きしめた。それ以外に、出来ることが浮かばなかった。
彼女を抱きしめて数分。耳に雨粒が跳ねる音がした。
「雨」
彼女は顔を上げ、雨をじっと見つめた。
「天気雨だな」
俺も顔を上げ、雨を見る。
「青ばっかり。脳みそまで青くなっちゃいそう」
冗談を言う彼女に、俺はクスクスと微笑み、「大丈夫だよ」と両手を組み、根拠のない根拠を見せた。これに、彼女も柔らかく微笑む。この様子だと、何だかんだ言っても外へ出たいらしい。
「外出るか?」
「うん」
俺は彼女の手首を引き、外へと飛び出した。
ザアザア降る雨の下、俺と栢野が空を見上げる。風邪引くわよって栢野の母が来てくれたけど、引けるもんなら引きたいし、どうせこんな日に限って風邪は引けないし。悪いけど、「結構です」と栢野の母にバッサリ答えた。
そして、雨の降り続く中、俺等は……。
「栢野さん、風邪引くよ」
俺とも栢野とも違う声に、俺も栢野も驚いて右を向く。すると、栢野の頭の上に傘を差す女子が一人おり、その後ろには数人の女子がいた。
「……え?」
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