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「今じゃ、この種を使うんじゃあああ」
アラキが階段を上がって露天甲板に出た時、ダックがまるで雄叫を上げていた。
先にあがった皆と船長、それにサクまでもが集まっていた。
種とはなんだろうかと疑問に思ったアラキが訊くより先に、タタ船長が尋ねていた。
「何の種なんだ?」
ダックが軍手の指先で摘んで掲げている濃い茶色のタネは小石ほどの大きさだ。
「柿の種じゃああ」
言われてみれば柿の種のようである。
なぜ今がそれを使う時なのかと更なる疑問が湧きあがったが、直後にそれを霧散させる驚きが彼を襲った。
――ホントにクジラだ
砂の中から垂直に突き出されたクジラの頭部は、それだけでこの船よりも大きい。
船底での会話からクジラがいるということを覚悟していたにも関わらず、やはり圧倒された。
「で、柿の種をどう使うってんだ?」
船長の言葉はすでにため息まじりだ。
「投げて、あのクジラに呑み込ませるんじゃ。
ほいだら育った柿の木があやつの胃袋を突き破ってくれるっちゅう寸法じゃ」
船底での一件の時にも感じたが、どうやらあの老人は見た目に似合わず過激なところがあるようだ。
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