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「ものすごくでかくなったり、早く育ったりする魔法の種なのか?」
「そんな都合のいいものがあるわけなかろう。
昔から、桃栗三年柿八年ちゅうじゃろうが。そうセコセコせんと、のんびりと気長に待たんかい」
「のんびり待ってる間に船を転覆させられちまうだろうが」
「あのクジラさんはそんなことしません」
水色髪の少女が頬を膨らませた。
黒い怪物の面を被った僧侶がクジラの存在について語った時、真っ先に船倉を飛び出していった少女だ。
どこに行くのだろうかとアラキはその後ろ姿を見送っていたのだが、甲板にあがっていたらしい。しかもクジラを擁護する姿勢を見せている。
「そんなことしないのは結構だが、この船は案内役なんかしねえぞ。
他の船ともはぐれちまったんだ。鉄風の河に行くなんざとんでもねえ」
「え、他の船とはぐれたんですか?」
アラキは驚いて訊き直した。
「そうじゃ、この船は見捨てられたんじゃ」
なぜかダックが答えた。
「キャラバンを組む時はそういう決まりにしてるんだ。
他の船に危機が迫っていても自船も危険な場合は、救援を行わずに離脱する、ってな」
タタが面倒くさそうにそう付け加える。
「そんなに危ない子じゃないのに」
サクが呟くように言った。
「あのデカさだけで十二分に危ない存在だ」
タタが指を差したので、アラキも改めてクジラを観察する。
穏やかな顔立ちをしていて、狂暴さこそ微塵も感じないが、その巨大な口でならこの船ぐらいは丸呑みにされてしまいそうだった。
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