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「とにかくお願いします」
水色髪の少女がタタに詰め寄った。
その背丈はタタの腹ぐらいまでしかなく、まるで父親に玩具をねだる女児のようだ。
だが彼女がねだっているのはこの船の針路、航路なのだ。
「よいではござらんか。
クジラと約束したのであれば従うべきであろう」
口を挟んだのはユウだった。
「何を寝言いってやがる。
約束はこの嬢ちゃんが勝手にしたんであって、オレじゃねえ。
それに繰り返すが、多少意思の疎通が図れたところで、所詮はケモノなんだ。この船や人間にとって危険な存在であることには違いねえんだぞ」
タタがそう言い放ったことで、少女は再び頬を膨らませた。
「万が一のことがあっても、物理的な攻撃であれば、自分がなんとかする」
ユウは腰に佩いた太刀の鞘を少し持ち上げててみせた。
あの巨大な生物を相手にして一人の人間が抗し得るはずもないのだが、その言葉は確信に満ちている。
「強気だな、おい。
船が動いて揺れてても同じことが言えんのか、この船酔い剣士」
なかなか苛辣なタタの言い草だが、船酔いでぐでんぐでんでのユウの姿を見たアラキも納得する言葉だった。
──伝説級の腕前の剣士であることは、間違いないんだけどなあ……
「約束というなら取引先や船客との契約が先だと思うが」
澄んだ、落ち着きのある声。群青の発言だ。
「ああ、ああ、そうだぜ。
リーラにはこの船の積み荷の到着を待ってる取り引き相手がわんさといるんだ。
クジラなんかにかかずらわってる暇はない」
思わぬ所からの援護に驚いた様子を見せつつも、タタは何度も頷く。
「だって、クジラさんがかわいそうじゃんっ」
大声を上げたのは水色髪の少女、ではなく、赤っぽい髪色の少女。ミツキだ。
暗黒神を信仰する魔法使いとのことだったが、動物に対しての慈悲は持ち合わせているらしい。
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