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「かわいそうって……。
あのクジラが可哀想なんてたまに見えるのか?
この船ぐらいなら、ひと呑みしちまいそうじゃねえか」
タタは青筋も浮かびそうな剣幕だ。
「……ほんと、肝っ玉の小さい男だよ」
あどけなさすら残る風貌のミツキが横を向いてボソリと漏らした呟きの内容に、アラキは耳を疑った。
「そんなにクジラさんが怖いんなら、ごはんをあげてもっと仲良くなればいいでしょっ」
ミツキは手に提げていたリュックサックの中に手を入れると何かを掴み出した。
「ちょっと待て、なんだそれは」
その何かを投擲しようとしているミツキを、タタはすんでのところで制止する。
「くじらさんのごはんだよ。
毒ニンジン、ヒヨス、トリカブト、マンドレークの根を、モロクトカゲのおなかに詰め込んで、燻製にしたんだよ」
ミツキが手にしていたのは、無数のトゲを生やしたドラゴンのような形の、手のひらサイズの黒い塊だ。
「なんか、毒草の名前ばかりが並んでたみたいだけど、大丈夫なのか?」
タタが訊く。
さすがに貿易を生業とするだけあって、その名前からどんな植物なのかは分かるらしい。
「だーいじょうぶ、多分。
ミツキオリジナルレシピの暗黒魔術料理だから効果ばつぐんだよ、多分」
「多分が多すぎるぞ」
「ふむふむ、媚薬の類かのう」
妙に嬉しそうに口を挟んだのはダックだ。
「えー、ダックちゃん魔術薬のこと分かるの?」
ミツキが驚いた。
「いやいや、わしゃあファーマーじゃからのう。
植物の名前から何となくそうかなーっと思っただけじゃあ」
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