15人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、船を発進させるの少し待ってくれない」
特に張り上げるでもない普通の声。
それを風に乗せタタの耳元まで届けた。
音が散らないよう注意を払っている。
おそらくタタには、すぐ耳元で話されたように聞こえるはずだ。
案の定彼は、跳び上がらんばかりに驚いて周囲を見回している。
「おい、今の声はあんたのか?」
ためらいがちにそう訊いたタタの声は、やはりサクが風を呼び寄せ自分の元まで運ばせる。
声に聴き覚えがあったためか、彼はすぐにサクの仕業だと気付いたようだ。
音は大気の振動。そして風は大気の流れ。サクは己の奏でる音楽を風として好きな場所に好きな方向で吹かせることができた。声もまたしかり。
「そう。
あの生物に敵意はない。
それと今、あの生物と話してる子がいる」
「あのデカブツと話すだと?」
サクは舷縁に立ち、心の声で巨獣に語りかけている少女を指さしてみせた。
「なんだあのガキ。
危ないとこに立ちやがって」
タタは少女の存在に今の今まで気付いてなかったようだ。
最初のコメントを投稿しよう!