【砂海のクジラ】

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「元々あの生物はもっと北の、鉄の風が吹く砂漠に棲んでたみたい。 それが何かに追われてこの辺りまで迷い込んでしまったらしいの。 このまま行くと砂丘地帯にあたるから、あの子がもともと棲んでたとこに案内してあげるって言ってるわ」 「ちょっと待て。 案内するって、あのガキがか?」 「というより、この船で案内するつもりみたい」 「なんでこの船なんだ。 意味が分からねえ」 「航海図と、歌を歌う僧侶の力を借りるつもりみたい」 「いや、どんな楽しげな坊主だ」 「この船の乗客に怪物の面を被った僧侶がいるらしいの」 サクはその僧侶を知らなかったが、巨獣との対話は言葉ではなく思念で行われているため、それを傍受することで、少女の目論見も同時に伝わってきていた。 「ああ、なんか不気味なやつがいたな」 タタはその人物に思い当たったらしい。 「いや、そんなことどうでもいいんだ。 日程も決まってるし、水や燃料のこともある。 何より他の二艘と隊を組んでの渡海なのに、鉄風の河なんかに寄り道するわけにはいかねえ」 「それは私に言われても知らない。 ただ……」 「ただ?」 サクは船の前方を指さした。 遠くに砂丘が見え、塵旋風も立たず静けさの戻った砂海には、特に目を引くような物は何もない。 真っ青な空と、赤褐色の砂のコントラストだけが目に痛い程に鮮やかだ。 「なんだ? 何にもねえぜ?」 「そう、何にもないの。船も」 「あ」 隊を組んでいたはずの、ガイザーバロン号と、ベアキャッツ号の姿もそこにはなかった。
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