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どうやら船が止まったらしい。
地鳴りのような振動が始まったのは、エンジンに火が入れられたためだろう。
だがしばらく経っても船が動き出す気配はなかった。
痺れを切らせたダック老人とミツキが大騒ぎしながらハンモックを跳び下りて船倉から出て行くと、怖ろしい仮面の男とユウもそれに続いた。
アラキがどうしようかと迷っていると、群青が檻から出てきた。
扉に施された頑強そうな錠は、 いつの間にか開けられていたらしい。
群青は伸びをすることもなく、しっかりとした足取りで歩き出した。
改めて見ると威風堂々とした体格だ。
まるで筋肉や脂肪が削ぎ取られたかのように痩せてはいるが、元は鍛え上げられた肉体であったであろうことを、その骨格が教えてくれる。
多くの兵士を鍛え、また自分自身の鍛錬も続けてきたアラキだからこそ、群青の本来の強さを推測することができた。
――この人は知略だけじゃない
その群青が通り過ぎざまに、セイに何事かを耳打ちした。
アラキの位置からは聴き取れない声だったが、セイの顔色がサッと青ざめたことは見逃さなかった。
それから慌てたような足取りで彼も群青に続いて船倉から出て行った。
――なんだ、何を言った?
そういえばセイは、咎人が自分を殺すだろうと予言をしていた。その事と関係があるのだろうか。
好奇心というよりも習性だった。
いついかなる時でも情報は握っておくに越したことはない。
アラキも何気ないフリを装ってハンモックを降りた。
船倉を出る時、リラックスした様子でハンモックに寝ているままのマチルダが目に入り、少し不思議な気がした。
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