黄色い悲鳴はあげられない

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「ごめんごめん、遅くなって」  そう言って隣の家に電気がついたのは日付変更間際だった。 「あんたねぇ!」  お互いベランダに出て会話する。小さい頃から変わらぬ光景だ。 「陽子来てたでしょ? びっくりした?」 「するに決まってるわっ! あんなとこで急に幼なじみが出てくるわ、会場内黄色い悲鳴だわ、しかもクロウ様役だわ!」  怒鳴るようにして言うと、隆一はケラケラと楽しそうに笑った。  ああ、そうなのだ。どこの少女漫画だよといった感じだが、今をときめくネナトウーラのリュウくんは私の隣の家に住む、幼なじみなのだ。 「ねぇねぇ、アニメ好きの陽子から見ててどうだった?」  世間では弟キャラとして可愛がられている甘えた笑顔で訊いてくる。でも、その笑顔は私には効かないからね。 「威厳が足りない。クロウ様はもっとしっかりしてるし。味方のフリをしてた時と、四天王に戻った時と、最期に庇って死ぬところの口調の区別がついてなさすぎ」  思ったことを淡々と言うと、うわぁと隆一は顔を歪めた。 「さすがに陽子厳しいね」  でもすぐに笑う。 「じゃあさ」  そして、 「俺だって気づいた?」  一番訊かれたくないことを、訊いてきた。 「う……」  私は一瞬言葉につまり、 「気づかなかったわよ! 残念ながらね!」  吐き捨てるように言った。  そうなのだ、全然気がつかなかった。  やったー! とか隆一は喜んでいる。
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