冷徹男の救いの手

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眠い。 眠い。 ものすごく、眠い。 金曜日の午後四時。 私はマーケティングセミナーに出席するため、大手リサーチ企業のオフィスビルを訪れていた。 さすが一流企業。 経費削減で空調を抑えているうちの社と違い、最上階にあるホールは暖房がほどよく効いていて極楽だ。 例によって昨夜も企画書を半徹で仕上げた私の瞼は鉛のようで、何度持ち上げても落ちてくる。 寝てはいけない。 聞いていないと、報告書が書けないんだから。 受付で渡された資料を両手で持ち、目を皿のように開くけれど、文字も音声もまったく脳に入ってきてくれない。 このマーケティングセミナーは様々な業種の企画担当者がヒット商品の開発体験談や開発手法などをレクチャーするもので、月一回開催されている。 元々は東条主任と一緒に参加していたものを、先月から私が一人立ちしている。 だから責任重大だというのに、この眠気では報告書が危うい。 手元資料に目を凝らしながら、手の甲をつねった。
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