冷徹男の救いの手

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「あれは失恋とは関係ないです」 百パーセント言い切れず、私の声は少し尻すぼみになった。 「東条主任の新恋人にも泣かされていたようですし」 「何でそれを……」 「人事部前の廊下で見かけただけですよ。職業柄、メッキの下の地金は大体わかりますから」 思わず顔を撫でた私に、呆れたようなため息混じりの声が飛んできた。 「化粧の話ではありません。性質と行動パターンの話です」 「……すみません」 じゃあどれだけ取り繕っても、私の無能ぶりも何もかもお見通しなんだ。 そう思うと、開き直りなのか、すがりつきたいような弱々しい気分に流れてしまいそうで、自分が心もとなくなってきた。 「何を言われたんですか?」 私の心を読んだように、質問がたたみかけられる。 「何って……。ただ、その……」 打ち明ける義務なんてない。 彼だって、こんな下らないことに興味なんかあるはずがない。 ここで再び弱味を見せてしまったら、私は決定的にダメ人間の烙印を押されてしまうのかもしれない。 彼の真意が分からず、躊躇して口ごもる。 二人しかいないホールは口をつぐむと無音で、呼吸の音まで伝わってしまいそうだった。
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