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「職場で余計な気を張らなくて済む。うまくいけば、東条主任に女として意識してもらえる。一石二鳥なのでは?」
鼻先にぶらさげられたニンジンはとても美味しそうだった。
じっと彼を見つめる私の頭上で、これまで穏やかな音を吐き出していた空調が止まった。
途端に広がる静けさに圧迫される。
「切れましたね」
不意に彼が立ち上がり、私を見下ろした。
「どうしますか?」
制限時間を言外に示され、ついに私は陥落してしまった。
誘い込まれるように頷くと、彼の口元に微笑が浮かんだ。
それを見た瞬間、理由は分からないけれど「しまった」と直感した。
「この後は?」
「な、何も」
「では帰る支度をして、ここで待っていて下さい」
「待って下さい!」
足を止めて振り返った彼に、勇気を振り絞って切り込んだ。
「皆川さんのメリットは?あの、ボ、ボランティアじゃないはずです」
「もちろんボランティアではありません」
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