冷徹男の救いの手

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「いえ、大丈夫です!資料を見て何とか……」 そう言い訳しながら資料を開いた私の言葉はそこで止まってしまった。 講演者によって資料の作り方は様々だ。 内容を詳しく書く人もいれば、見出しタイトルのみ、詳細はすべて口頭で語る人もいる。 今日の講演者は後者だった。 ホッチキスで綴じられたA4用紙二枚はほとんどがメモのための余白で、“ヒット商品の芽とは?”そんな大まかすぎる見出しだけがまばらに並んでいる。 「今日の方は慣れておられて、聴衆の反応によって内容を自由に変えるんですよ」 「……」 追い討ちをかけるような言葉に黙りこむ。 序盤のメモだけでは、肝心な部分を捏造しない限り報告書のボリュームにならない。 「報告書は……無理みたいです……」 ついに私は小さな声で正直に認めた。 リストラの鬼の前でこの体たらくでは、もうおしまいだ。 「く……クビですよね……」 「は?」
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