プロローグ02 [成田リナ]

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な、なんなのいきなり。 確かに前任の担当者がいなくなって、 ちょっと気持ちがダレてたけど、 そんな言い方しなくても…。 なんだか無性に腹が立ち、 嫌がらせで『ナカダ氏』と呼んでみる。 もちろんダブルミーニングなのは、 説明しなくても分かるだろう。 「アホかッ!そんな呼び方したら、 日本全国の中田姓を敵に回すぞ、お前」 「なぜですか?官能作家として、 むしろ相応しい呼び方だと 自負しておりますが」 「この編集部内だけなら、 百歩譲って許そう。 公の場でそう呼んでみろ、…コロス」 「どうしてダメなのか説明してください。 ナカダ氏、なぜ怒っているのですか?」 「あー、呼んだな、また呼びやがったな」 「え、だって編集部内なら許すって…」 「やっぱり許さないこと決めたんだよッ。 絶対にその呼び方はヤメロ!」 「いやです。 親しみを込めてこれからもそう呼びます」 「コ、コロス!」 「簡単には殺されません」 延々と続く言い争い。 …どうしてだろう。 父を筆頭に、 今まで男性に口ごたえしたことなんて 無かったのに。 不思議とナカダ氏には言い返せた。 冷たい口調とは裏腹な、 その優しい瞳が、そうさせるのか。 そのときの私には、 まだ分からなかった。
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