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そんなある日のことだった。
「あ~、いいところに、マミ先生」
その日、編集部に顔を出すと、
松沢編集長が私に声を掛けてきた。
ちなみに『マミ』というのは私の
ペンネームだ。
手土産の菓子折りを渡すと、
編集長は背後の男性を前に押し出す。
「マミ先生の担当になる中田です。
こいつ元々は文芸誌の方にいて、
官能小説はお初なんですよ。
まあ、お手柔らかにお願いします。
ほら、中田も挨拶しろ。
前に言ってただろ?
大学在学中にデビューした『マミ』先生。
可愛いからって惚れるなよ」
…これが、中田さんとの出会いだった。
無愛想なうえに威圧的な態度。
最初の言葉なんて、
『名字なに?』の一言だけ。
私が『成田リナです』と答えると、
意外そうにこう呟く。
「名前、マミじゃないのかよッ」
「え、はい。妹が2人おりまして。
マリとレミというんですが、
それを組み合わせて『マミ』にしました」
端正な顔立ち。
見るからに知的そうだ。
黙っていればすごく好みのタイプだけど、
中田さんはなぜか特別私に冷たい。
「あんた最近、執筆意欲ないだろ?
いつまでも学生気分でいるなよ。
プロなんだから、お金を貰っている以上、
全力投球で励めっつうの」
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