本編

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悲鳴が聞こえた。 僕は梅酒を飲んでいた。 それから、地響きのような音が聞こえた。 僕はテレビを見ていた。 窓ガラスの割れる音がして。 目の前のテレビが突然、砂嵐に変わった。 泣き叫ぶ声は永遠に続き。 僕はようやく重い腰を上げたのだ。 ゆっくりと気だるげに窓に近寄り、カーテンを開けた。 すがすがしいほどの晴天が瞳に映る。 何とはなしに悔しくなって、梅酒を煽る。 本当はテキーラを飲んでみたかったのだけど、生憎僕はお酒に強い訳じゃない。 ただ、彼女に浮気された挙句、振られた腹いせに昼間から梅酒を飲んでいるだけなのだ。 彼女との思い出を思いだして、皮肉な笑みを浮かべた。 それから、もう一度、今度はじっくりと悲鳴の正体を探ろうと外の世界を覗いた。 すると、昨夜から僕の彼女ではなくなった彼女が道を歩いていて。 それから襲われた。 恐ろしいほど醜い怪物に。 そいつらは人間の姿をしていた。 僕はそんな彼女の姿を酒のつまみにして、また梅酒を飲む。 ざまぁみやがれ。 世の中を甘く見た罰が下ったんだよ。 彼女の周りに群がる怪物。 彼女の悲鳴もついには途絶え。 怪物たちの唸り声が青空の下、愉快そうに響く。 事切れた彼女に興味を失くした怪物たちは、そのまま散り散りになって街に消えていく。 彼女の屍を眺めながら、また梅酒をぐびり。 そうしていると、いつの間にか暮れてきた空を眺めた。 どこからか怪物の声も聞こえてくる。 梅酒はあと一口分。 彼女の姿を最後に一目に、梅酒を飲もう。 そう考えて、窓の外に目を向けるも、彼女の姿は既にそこにはなかった。 思案する僕の耳にインターホンの音が聞こえた。 一人身になった僕を心配した友人が来てくれたのだろう。 僕は梅酒を片手に玄関を開けた。 しかし、そこに居たのは怪物と化した彼女。 僕は驚いて梅酒を零した。 そのことにまた驚いている内に、僕は彼女に襲われた。 彼女の与える僕の死が、悲しいような嬉しいような。 だから、僕は彼女を受け入れることに甘んじたのだ。
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