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吹雪の夜、どこからか悲鳴が聞こえたような気がした。
私は、何となく気にかかり、ゆっくりと外に出た。
あたり一面は白い雪に覆われている。
燃え盛る薪を、ぐるりとかざして見たが、何も変わったところはない。
それにしても、ひどい寒さだ。
戸を閉めなおして部屋に戻ると、ほどなくして戸を叩く音が聞こえた。
どんどんどん!
「すまんのう。開けてくれんかのう。」
戸を開けると、外には老人が立っていた。
「こんな吹雪じゃ、今夜一晩泊めてくれんかのう。」
「お疲れじゃろう。吹雪のやむまでいればよい。ただし、わしはあんたが誰だか知らん。飯は食わすけん、それが済んだら、そっちの納屋で休んじょくれ。」
「ありがたいこった。」
老人は、ゆがんだ笑いを浮かべると、中にゆっくりと入って来た。
「まあ、こちらにすわりんさい。」
私は、湯を沸かし、干飯を取り出そうとした。
すると老人は、にっこりと笑って、腰に下げた酒徳利を見せた。
まるで「一緒にやらんか?」と誘っているようだった。
「わしはやらん。」
そう言うと、老人は、徳利に口をつけて、一人で飲み始めた。
「湯はいらんか?」
私がそう聞いても、まるで聞こえない風なので、これ以上すすめることはやめにした。
しかし、酒だけ飲むのもかわいそうな気がして、梅干しをすすめると、老人は喜んで口に入れた。
「それにしても、なんでこんな夜に出歩いとるんよ?」
私が聞くと、老人は急に真面目な顔になり、身の上話を始めた。
話によると、老人は代々薬草を探し、見つけた薬草で薬を作ることで生計を立てているそうだ。今日の夜は、貴重な薬草が成熟するまたとない夜とのことで、今夜を逃すと、また数十年待たなければならないそうだ。
その薬草は、不思議と人と話のできる薬草で、人の未来や運命を言い当て、その薬草を煎じて飲めば決して治らない病気はない、とのことであった。
そんなものがあるか、と私は思ったが、ためしに
「で、その薬草は手に入ったのか。」
と聞いてみた。
老人は何も言わなかったが、少しだけ顔がほころんだのを私は見逃さなかった。
その後、よほど良い気分になったようで、老人は納屋に行ってそのまま眠ってしまった。
後から火鉢を入れてやったが、いくら藁にくるまっても寒かろうに、と気の毒な気がして、私もなかなか寝付けなかった。
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