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「ただいま」
リビングに入るとソファで本を読んでいた兄が顔を上げ、
「おかえり、小百合。今日は遅かったね」
「……棗兄さん」
「ん、なんだい?」
何も知らないというような顔でにこにこと返事をする兄に、思わず長いため息が出た。
「どうして、殺したのですか」
咎める口調と不機嫌な表情の妹に、兄はソファから立ち上がり妹へと歩み寄る。目の前に立つと、目線を合わせるように屈み、両手で妹の頬を包み込む。そして笑顔のまま、
「あのゴミが悪いんだよ。これ以上小百合に近付くのはやめてくれと忠告したのに、アレは聞かなかったんだから」
「だから殺したのですか」
「そうだよ。ダメだったかな?」
いつの間にか鼻が触れ合う程に近付いた二人。
妹は両頬を包む兄の手に自分の手を重ね、
「…いいえ、小百合を思ってしてくれた事ですから。とても、嬉しいです」
そう言って、兄の手に頬をすり寄せた。
「ああ、良かった。怒ってるのかと思ったよ」
「あら、怒ってますよ?」
「え」
「兄さん、私に内緒で殺してしまったじゃないですか。一人でやってしまうなんて…酷いです」
むくれた妹に兄は小さく笑いながら、謝罪した。
「ごめんよ、これからは小百合に黙って殺したりしないから。許してくれよ」
軽くリップ音をたてながら、妹の額にキスをする。
「許してあげますよ、今回だけですからね。だから……」
どちらからともなく唇を寄せて、
「だから、早く目を閉じて」
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