第1章

10/15
前へ
/15ページ
次へ
「取りに行かないと」愛菜はなんの気なしに言った。 「ま、待て。動くんじゃない!」二回目のインターフォンが入る。 「でも、今出ておいた方がいいんじゃないの。怪しまれない?」 「平気だ」 「追加料金を払って、わざわざ最短の日時に配達を頼んだ荷物でも?」愛菜の嘘だった。たまたま、一番空いてる時間帯が今の時間なだけだ。 不測事態に対処しようと、拓哉はブツブツと考え事をし……愛菜への警戒を少し緩めた。 ここで自信のついた愛菜は、一世一代の賭けに出る。今の状況ではたとえ彼の質問に答えても、無事ではすまない。分の悪すぎる賭けだけど、今宅配員に助けを求めた方が今よりも全然いいに決まってる。そう考えた彼女は大きく息を吸い、走って絶叫した。 「誰か、助けて!」ソファーから居間の扉近くまで走り込み、あらんかぎりの力で彼女は叫ぶ。 カッと見開いた拓哉は、拳銃を振り上げ……愛菜を殴打した。 「お前!お前、何してるんだ!せっかく不道徳者にチャンスを与えてやってるって言うのに」 「助けて!」尚も愛菜は声を上げる。彼女は殴打のショックで扉の壁際の床に倒れ込んでしまった。 「この!この!」拓哉は倒れた彼女の腹部に、何度も蹴りを入れた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加