第1章

11/15
前へ
/15ページ
次へ
「うぐっ」 彼女は必死で耐えつつ、何回も叫ぶ。しかし、奇妙な事に宅配員は異常に気づきもせず、三回目のインターフォンを鳴らした後に帰ってしまった。 愛菜は絶望した。 ……どうして……玄関は居間から扉を挟んだ所にあるのに……玄関ドアが頑丈っていっても、ちょっとは音が漏れるはずなのに。それに、私が倒れ込んだ時大きな物音がしたのに、いったいどうして? 宅配員の退散を確認した拓哉は、ふうと愛菜への暴行をストップした。 「ふん!度重なるイレギュラーのせいで時間を食ってしまった。おい、答えろ。おい、なんとか言えよ!」愛菜の髪の毛を掴み、ぶんぶんと頭を振り回す。 「けっ、結婚指輪」弱々しい声で彼女は答えた。 「ちげえよ、バーカ!あー、スカッとするぜ。前から変に高尚ぶってるお前にムカついてたんだ。それにお前さ、忘れてないか?」 「何を?」 「そもそもの話し、やくざ映画みたいなドンパチと無縁な住宅街で、銃声なんて聞こえて見ろ。よっぽど運が良くなければ、誰かが気づくだろ」 「あっ」確かに彼の言う通り。そして、彼女はこの部屋の特殊な事情を思い出した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加