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三人ともすぐにアパートに戻る気にはなれず、石段に座ってぼんやり何もない海を眺めた。
時間の感覚などほとんどなくなっていたが、夜の気配が濃くなっているのは、ぐっと気温が下がってきたのでわかる。
不意に坂口が立ち上がって空を見上げた。
「あ、雪……」
空からはらはらと粉雪が降ってきた。街灯に照らされて白く輝きながら舞い踊る。
「神楽ないんだったら、帰る」
何も起こらなかったかのように、坂口は一人でアパートに帰っていった。
事実、何も変わっていない。竜一と辻は神社が燃えるのを止めただけだ。
坂口の中で相変わらず辻は天使で、竜一は裏切り者の悪魔で、世界は武器を持たないとやっていけないほど敵だらけの暴力に満ちた空間なのかもしれない。それはそれで、坂口の“本当”なのだから、仕方がない。竜一も辻も、他者を思い通りに変えることなどできない。されたくもない。
二人とも黙って、坂口を見送った。
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