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とはいえ、帰る場所はみな同じだ。
「さて、俺たちも、帰るか」
辻は立ち上がり、もう一度火を確認して戻ってきた。
「ところで、なんで坂口と俺が神社にいるってわかったんだ?」
雪に濡れた石段をゆっくり下りながら、竜一は不思議に思っていたことを辻に聞いた。
「土曜に坂口がいく場所なんてきまってら」
「張ってたのか」
「おうよ。まさかお前まで来るとは思わなかったけど。……お前は俺を守るって思ってたみたいだけど、俺も……お前を守りたかったんだぜ」
辻の笑顔は自然で屈託など微塵もないのに、思いがけないほど大人っぽい色気が漂っていた。もうそんなのこっぱずかしいと思っていたのに、不覚にもぐっと来てしまった。胸がどきどきすると、同時に再び情けなさの嵐が押し寄せる。
「俺……情けねぇよ。自分のことばっか考えてて」
「俺のこと、心配してくれただろ」
「けど……それも、口先ばっかで、自分が不安になりたくなかっただけなんじゃないかと思って……」
「なんでもいいじゃん」
「うん……」
石段を降りて路地に入り込む。路地を抜けると海沿いにアパートまでの道が続く。
沖から冬らしい低い海鳴りが聞こえる。波も次第に荒くなっているようだが、真っ暗な海にはしぶき一つ見えない。街灯の光が当たるところにだけ、型に抜かれたように雪が降っている。軽い粉雪は海風に吹かれて舞い上がり、吸い込まれるように海に消える。
やはり、世界は美しい。住む者の醜さに関わらず。
竜一はべったりと辻の肩を抱いた。
ちょっとだけ、びくっと震えたのは感じたが、辻も竜一の腰に手を回した。
「あったけぇなぁ」
「うん……」
そのままアパートにたどり着き、階段を登る。竜一は二階の部屋へ、辻は三階の部屋へ別れて戻る。一階から二階へ向かう踊り場の途中で竜一は我慢できなくなり、辻にしがみついた。
「俺、愛人でいい」
ぎょっとして、辻は竜一の顔をのぞき込んだ。
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