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「とても、お前には釣り合わない。俺は……お前が香具師になれないってわかったとき、嬉しかったんだ。お前がどこにも行かないってわかって、喜んだんだ。それだけじゃない、自分は……助かったって思った」
頭の上に乗っていた重石は、辻について行くことについての不安だった。それが無くなって、ほっとしたのだ。
「俺は自分の事しか考えられない馬鹿野郎で、クソ野郎の豚野郎だ。でも、お前に触れてるだけで幸せで……一緒にいたいって思っちまう……離れてもたまにあってくれるだけでいい。嫌いになったら嫌ってもいい。でもそれまでは……好きでいさせてくれ」
耳元で辻がささやいた。
「俺も同じだ」
「え?」
「俺も、お前がひどい目にあってるのに、ラッキーって思ったことある」
「そんなこと……、あったか」
「お前が、大けがして入院してるときさ。久々に会える口実がついたって、思ったんだ」
そういえば、あの時竜一もそれまで知らなかった辻の表情を見ることができて幸運に思っていたのだ。しかも、坂口のおかげだとさえ思っていた。
辻は優しく唇の先だけでキスをした。
「突然だけどよ、俺、夢ができた。なりたいものが」
「……漁師、じゃなくて?」
辻はいたずらっぽくにやっと笑った。
「俺、お前の嫁さんになりたい」
しばし呆然とした後、竜一もつられて笑った。
「男でも、嫁さんっていうのかな」
「そんなのわかんねぇよ……とにかくよ、愛人なんて言って、ごめんな」
夢を見ることができるという事は、幸いなことだ。辻に夢が生まれて、竜一は本当に嬉しかった。そして、竜一の中にも夢が生まれた。
「俺も、お前と一緒に生きたい」
竜一は辻のありったけの思いを込めてキスをした。辻はおおらかに腕を広げ、竜一を受け止めた。
「何やってんだいあんたら」
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