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本当に辻はここを跳んだのか。この距離を、この高さを。
三階建ての漁民アパートは小さな港町の中では高い建物だった。
東棟と西棟の二棟が日の当たる方向を崖にふさがれた狭い平地に、双子が肩を寄せ合うように海を向いて建っている。
竜一は西棟の屋上に立っていた。
コンクリートの床は長く伸びて、東棟の丸い給水塔の下へ竜一を導いていた。
その間には当然、隔たりがある。
数日前、竜一はこの隔たりを辻が飛び越えたと高校のクラスメイトから聞かされた。友人はまた別の友人から聞いたという。噂の元をたどると、どうも坂口に行きつくらしい。
辻も坂口も竜一の中学時代の同級生であり、同じアパートの住人だ。全く耳に入らないというのも解せないが、思い当たる節もあった。
竜一は地元の高校には進学しなかった。汽車とバスを乗り継いで一時間かかる高校に入った。
アパートに住んでいる同級生は皆地元の高校に進学した。
それから、連中とは不思議と顔を合わせなくなった。
物心つくころから中学まで、特に約束などしなくとも自然と集まって、何となくその日その日に見合った遊びをしていた。
雨さえ降らなければ、いや少々雨が降っていても波止に行けば誰かが竿とタモを持ってうろうろしていた。
それが今は後ろ姿さえ見ない。
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