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どうして、こうまでして、この男たちは。互いにすれ違い、憎み合う。
これほどまで愛し合っているのに。必要だとわかっているのに。
自分を、相手を傷つけなければ受け容れられなかった想い。偽りの憎しみに変えて、その愛情はさらに不鮮明になってゆく。
かつてライヴハウスで見た彼ら。ただ情熱の赴くままに音楽に打ちこむ姿。バンドという、まっすぐな絆。あの頃に帰れたら、どれだけ、いいのだろう。
やがてゆっくりと背を叩いているうちに、疲れ切った利が眠りに落ちた。黒く短い髪に指をとおせば、するりと落ちて抜けてゆく。俺はわずかな淋しさを覚えながら、手のひらで頭を包みこみ、利をそっと横たえた。
人の汚さを知る。人の脆さを知る。愛の底知れない深淵を見る。生きることの難しさを、見る。
「おやすみ」
柔らかい唇に、そっとくちづけを落とす。ほんのりとしたその温もりに、胸の内側でなにかがかたちを成してゆく。
俺にできることは、護ってやることだけだ。もういちど笑って生きてくれるように。ほんとうの姿でいられるように。だから、俺は気持ちには嘘をつかない。本当の気持ちだけを与えたい。この腕を棄ててでも、護りたいのだ。大事なものは、もうなくさない。
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