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本当に、この男が、あの派手な青年なのか。あまりにイメージからかけ離れている彼を思わず疑うように見てしまう。
しかし思い当たる節もある。〝利〟はステージ上とオフではかなり違うと聞いたことがある。おそらく葵あたりからだろう。TOURNIQUETは、俺たちが気にしていたバンドだった。
最後に会ったのは、LSDのデビューが決まった年だから、三年前か。後輩が企画してくれた俺たちのメジャー入りを祝うイベントに葵が自らかけあってTOURNIQUETをブッキングした。もちろん当日は会話もしたし、ステージも覚えている。その後は後輩の対バンで出ていたのを見た。だがそれももう一年以上前だ。あれからTOURNIQUETは、ほとんど見かけなくなってしまった。
カップを包む骨の浮いた手を見る。
この一年で、いったい彼に何があったのか。
肌は青白く、やつれた表情。そして、何よりもこの眸。完全に心を失っているという顔だ。煌びやかに衣装を纏い、ステージの上で叫んでいるあの彼とは一致しない。
確かによく見れば顔の作りは一致する。髪も同じだ。だがその金髪も艶がなく、荒れている。
薬か何かか。それとも――。
倒れていた姿が脳裏によぎる。
「ここは」
利が部屋を見回した。
「ああ、そうだった。俺の家」
「どうして、自分が……」
利が顔を下げ、ちいさく呟いた。俺はことばを詰まらせた。どう言えばいいのかわからない。勝手に助けて連れて帰ってきた。明らかにレイプをされて気を失っていたとしか思えなかったから。そんなことを単刀直入に話すのか。さすがに、それは言いにくい。
黙ったままの俺に、利は顔を上げると目を細めた。
「また……」
「え?」
ため息とともに零れた声に眉を寄せる。
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