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目に見えるほど震えている。全身に力がこもって、引き寄せられた膝頭の上を金髪の毛先が小刻みに泳いでいる。
俺は幾ばくかせり上がってきた嫌悪を寒気のようなものが押しとどめるのを感じながら、利に向き合った。胸に酸の痛みが広がってゆく。もううしろなどないのに、利の足は床を蹴り、滑り、必死にベッドに身を寄せて身を守るようにして両肘に爪を立てている。
ここが、俺が安全だと伝えるにはどうすればいいのか。
優しくなだめて抱き締めるのか、それとも落ち着くのを待つべきか。まだ信頼を得たとは言いがたい。俺が慰め、抱き締めてやることで安心するとは思えない。
しかし混乱はいつ収まるのか。このままでは傷を増やしかねない。利はその大げさな動きのせいで痩せた背中をあちこちに打ち付けている。
俺は顎を引き、手を伸ばした。咄嗟にやみくもに振りまわされる腕を掴む。
「嫌だあ……!」
割れた叫び声が胸を引っ掻く。
「放して、放して――!」
きっといつもそう叫んでいるのだ。その哀願を力で抑えつけている人間がいる。
ならばその願いを聞き入れてやることが一番の救いなのではないのか。
俺は掴んでいた手の力を緩めた。
とたんに利は脱力した。支えのない上半身が倒れ、頭が力なく俺の肩に落ちた。
彼は咳き込み、涙声で呟いた。
「もう……いやだ」
やるせなかった。
利は血を見て、狂った。それだけで、自分をコントロールすることができなくなったのだ。
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