第二章 白昼夢 (4話)

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第二章 白昼夢 (4話)

「じゃ、とりあえず着替えは俺ので我慢して」 「ありがとうございます」 「だから」 「あ、ありがとう……」 「ん」  控えめな声に少しだけ笑う。今は無理矢理でも、そのうち慣れるだろう。  黒いチェストをあさり、適当に見繕ったトレーナーとジャージのパンツを出す。きっと彼には大きいはずだ。そう思うと笑みが湧いてしまう。まるで子供の面倒を見ている気分だ。 「はい。本日のお召し物」  服を差し出す。それを黙って見つめる利に眉を寄せる。 「大丈夫か?」  反応が鈍い。尋ねると、やっと手を伸ばし、立ち上がろうした。 「あ」 「どうした」 「また……」  利は顔を歪めた。また。さっきも言っていた。  床に足をついたそのとき、いきなり利が崩れた。体重を支えきれなくなったように膝をつく。  慌てて屈んで、はっとした。視界の端に赤がある。左足のくるぶしに真新しい血液がぽつりと付着していた。おそらく傷口が開いたのだ。どこの傷かは、なんとなくわかる。  利は視線に気づくと追うように自分の足を見た。  その眸が見開かれた。 「いやだ」 「え?」 「いやだ、いやだ!」  利は口を押さえ、嫌だと繰り返した。その顔は酷く青く、目を開いただけで表情がない。 「うッ……」  背が動き、両手で口を押さえる。俺は咄嗟にその肩に手を添えた。 「おい」 「いやだ! 触らないで、触るなッ!」  利は突然両手を振りまわし、叫びだした。弾かれた腕を引き切ることもできないまま、俺は動きを止めた。
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